障がい児・者の地域生活を考える「らしくの会」
代表 岩橋 由美子
障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(以下ガイドライン)」が平成29年3月31日に厚生労働省より全国各自治体に示されました。
このガイドラインの概要としては
《趣旨》
・ガイドラインは事業者がサービス等利用計画や個別支援計画を作成してサービスを利用する際の障害者の意思決定支援についての考え方を整理し、相談支援や施設入所支援等の障害福祉サービスの現場において意思決定支援がより具体的に行われる為の基本的考え方や姿勢、方法、配慮されるべき事項等を整理し、事業者がサービスを提供する際に必要とされる意思決定支援の枠組みを示し、もって障害者の意思を尊重した質の高いサービスの提供に資することを目的とするものである。
《定義》
・自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることが出来るように、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、支援を尽くしてもそれが困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために事業者の職員が行う支援の行為及び仕組みをいう。
など厚生労働省のガイドラインは18ページに及んで支援に関する詳細な内容が示されています。
示された基本原則は本人への支援は自己決定の尊重に基づき行い必要な情報の説明は、理解できるよう工夫して行うこと、選択が難しい人には絵カードや具体物を手がかりに選ばせるなど、意思表示が出来るよう支援することがあげられています。
支援者は価値観においては不合理と思われる決定でも他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するよう努める姿勢が求められています。
自己決定や意思確認が困難な場合には本人を良く知る関係者が集まって生活や日中活動場面での表情や感情、行動に関する記録などの情報、これまでの生活史、人間関係等の情報を把握し、根拠を明白にしながら本人の意思及び選好を推定するとしています。そこには、本人に係る福祉関係事業者や家族、後見人等が必要に応じて集まり情報を出し合い、判断の根拠を明確にしながらより制限の少ない生活への移行を原則とし意思決定支援を進める必要性があるとされています。
意思決定責任者の配置には、本人の家族や知人、成年後見人、ピアサポーター、基幹相談支援センター等、本人に直接サービスを提供する立場とは別の第三者として意見を述べることにより様々な関係者が本人の立場に立ち、多様な視点から意思決定支援を進めることが望ましいとしています。
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」のスローガンのもと権利条約を批准し法施行後の見直しにより、障害者の思いを最大限尊重しようという意思決定支援のガイドラインができたことは、大いに歓迎すべきものであり、障害があっても一人の人として自己決定を大切にされる時代がきたと、とても喜んでおります。
しかし、人として当たり前の自己決定が、障害のある人には困難とされ意思決定を尊重されずにきた現実もあります。
意思を伝えるのが困難な障害のある人は、回りの支援者や家族の考えに大きく左右された生活を送ってきたのが現状だと思います。
ガイドラインの普及により、やっと本当の意味での自己決定へのスタートラインに立つ障害者や、支援者が多くいると思います。
私たちは食べたいものから人生に一度のような大きな決めごとまで、日々選択し自己決定して生きています。大きな決定は人に相談したり、情報を得たりして悩みながらも決めていきます。そこには、日々の意思決定をしてきた積み重ねの経験や失敗した中で学ぶ能力、情報の理解力なども係わってきます。
障害のある人がそこに至るまでには、関係者の時間をかけた係わりが必要で、
発達保障も含めた広い意味での経験の積み重ねや、工夫を凝らした説明等によって情報を得て選択する力や表出する力を身につけることは、意思決定にはとても大切なことです。意思決定支援者は支援力を養うことに加え、まずは相手との信頼関係を築くことが、その後の関係性でとても重要なポイントになると思います。
それと同時にガイドラインの普及に当たっては形式的な適用や技術的支援にとらわれずに自己決定が阻害されないように留意すべきです。
ガイドラインでは意思確認が困難な障害のある人場合には関係者会議で情報交換して本人の意思の推定、最善の利益の判断を行うこととなっていますが、その大前提として関係者が障害者への尊厳をいかに守るのかという大きな視点を常に意識して確認し合うべきであると思います。
だが、実際の福祉現場は過酷な事業所運営で日々の支援に追われ、福祉離れで人材の確保も難しい状況の中で、職員の質の向上や新しい取り組みのための研修などをしていない事業所が多いと思います。そのうえ支援者会議で集まるための関係者の日程調整など、より多くの情報や意見で意思決定を支援すべきなのに実践するにはまだまだかなり厳しい現状だと思います。
しかし、やっと認められた障害のある人の権利擁護の中核とも言える意思決定のためのガイドラインです。これを絵に描いた餅にしないためにも今後、福祉現場で奮闘している関係者が共有し、研修を重ね、普及を図っていくことに前向きに取り組んでくれることを心より期待しています。